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キャラクターができるまで:「最初のヴォルト・ハンター」タイフォン・デ・レオン

予想読了時間4 分, 34 秒
『ボーダーランズ3』のライターのダニー・ホーマン氏が、「ボーダーランズ」シリーズの重要人物「タイフォン・デ・レオン」が出来上がるまでを解説します。
Building Typhon

注意:この記事には『ボーダーランズ3』の重要なネタバレが含まれています。

タイフォン・デ・レオンというキャラクターがファンの皆さんに受け入れられるかどうか、心配していました。なぜならヴォルト・ハンターという存在は「ボーダーランズ」の世界最大の謎のひとつで、みんなの憧れの的だからです。ヴォルト・ハンターはさまざまな姿形をしていますが、全員「バッドアス」であるという点では共通しています。しかし、実際にゲーム内で出会うタイフォンは、あちこちに貼られているポスターに描かれている姿とは違い、さほど「バッドアス」には見えません。

パンドラでフンを集めていた彼が伝説のヴォルト・ハンターへと成長していく姿は、どちらかというとインディ・ジョーンズというより、フォレスト・ガンプのようです。タイフォンは本当に善良な人物で、生まれながらの戦士というわけではありません。己の勘を信じ、状況に柔軟に対応して生き延びてきました。彼は企業同士の醜い争い、戦争、そして裏切りにも負けません。失敗しても何度でも起き上がる、他とは違うタイプのヒーローです。そんなタイフォンですが、数十年前にエリディアンの母星を探しに行ったきり、行方不明になったと言われていました… そう、つい最近までは。

Typhon with gun

巨人の後を追って

プレイヤーが伝説の冒険者タイフォン・デ・レオンについて最初に知るのは、歴史マーカーと呼ばれるエコー・ログを見つけたときです。この一連のログには、タイフォンがパンドラを出て、最初のヴォルト・ハンターとなり、その後も様々な冒険を繰り広げていく様子が記録されています。歴史マーカーの内容は、新米ヴォルト・ハンターへのアドバイスであると同時に、「ボーダーランズ」シリーズの世界観を掘り下げる情報満載のエコー・ログです。

「パンドラは奇妙で過酷な場所だ。『惑星自体がノミに刺されたスキャッグみたいに私たちを振り落とそうとしてるんじゃないか?』そう思うこともある。エリディアンの母星さえ見つかれば、その答えもわかるはずだ。その時は聞いてやる。『おい、パンドラの何がそんなに特別なんだ?』とな」

ヴォルト・ハンターは多種多様な見た目であるということを表現するため、タイフォンは地に足が着いた人物として描写する必要がありました。いわば、パンドラ版ブルーカラーです。フォレスト・ガンプのようなキャラクターの魅力は、制約を抱えていても耐え抜けることや、忍耐強く頑張る強さを持っていることです。タイフォンの制約はパンドラ出身というところですが、それは彼の武器でもあります。パンドラで生まれ育ったタイフォンには、好奇心や鋭い勘が備わっています。これらは、冒険において役に立つ特徴でした。

典型的なヒーローとは違い、タイフォン・デ・レオンは知名度や栄誉のためにヴォルトを探しているのではありません。彼を突き動かすものは、好奇心だけです。タイフォンは宇宙の秘密の究明を目指す、冒険者の中の冒険者なのです。しかしアトラス社のためにヴォルトを見つけたことをきっかけに、企業が自分とは異なる価値観で動いていることに気づきます。

「ヴォルトの発見がプロメティアの人々の幸せにつながればよかったんだが、残念ながらそうはならなかった。いや、最初はそんな兆しもあったんだ。地下鉄とか惑星規模の鉄道とかが次々に建設されて… だが、次のヴォルトが見つからないとわかると、アトラスは投資をやめ、プロメティアはゴミ溜めに戻った。誰に雇われるかはよく考えろ。企業はクソッタレの集まりだ。中から見たってろくなもんじゃない。関わりすぎればクソまみれだ」

Typhon swing

「信頼できない語り手」と「物語」

タイフォン・デ・レオンはほとんどのキャラクターと同様、いわゆる「信頼できない語り手」ではありますが、それでも彼の日誌には世界観や物語を伝える情報がたくさん詰まっています。私たちは彼のエコー・ログを書くにあたり、具体的な情報(例えばジェイコブス社のスローガン、「1発で仕留められないなら、そのジェイコブスはまがい物」はタイフォンの言葉であるというエピソードなど)と、意図的にあいまいな情報(ヴォルトが作られた理由をタイフォン自身が考えているログなど)の両方を用意しました。どれが真実で、どれがホラ話かを判断するのは皆さんにお任せします。

タイフォンの記録を探していく過程で、プレイヤーは彼の足跡をたどり、数十年前の宇宙の様子を知ることになります。1作目の『ボーダーランズ』の前、パンドラはどのような場所だったのか。いかにしてアトラス社がプロメティアの支配を強めていったのか。エデン-6のヴォルトが誰にも発見されなかったのはなぜなのか… タイフォンのエコー・ログを書く際の課題のひとつは、一部のプレイヤーが熱心にログを探してくれる一方で、ほとんど見つけないプレイヤーもいるという点でした。そのため、それぞれのエコー・ログは単独で意味を持ちつつ、より大きな物語の一部となるように書かれています。

タイフォンには、予期せぬヒーローになってもらうことが目標でした。荒削りでありながら、人好きする。無神経でありながら、心根は善良。謙虚でありながら、伝説の男… 「ボーダーランズ」の世界には、無慈悲な企業や強欲が暗い影を落としていても、どこか善良さが残っています。ほんのわずかな希望ですが、それは多くの人にとって宇宙の暗闇を照らす光となります。ヴォルト・ハンターたちは、欲や自己利益だけではない理由のためにヴォルトを探します。ヴォルトを探すことは、自分探しでもあります。自分がどういった人間で、なにが自分を突き動かしているのかを知るということなのです。

Typhon log

デ・レオン一家の秘密

タイフォンの日誌では、彼自身の冒険についてだけでなく、メインストーリーの重要な要素も語られてます。カリプソ・ツインズの本当の目的もそのひとつです。「お話を聞かせること」はタイフォンの物語におけるテーマのひとつで、彼自身もゲーム終盤で「おとぎ話も、相手を間違えれば危険な情報になる」と語っています。ヴォルトを巡るカリプソ・ツインズ対プレイヤーの争いが、タイフォンの旅路をなぞっているのには訳があるのです。ストーリー中、リリスたちはたびたび、常に一歩先を行くカリプソ・ツインズとチルドレン・オブ・ヴォルトに悩まされます。

そんな中、トロイ・カリプソを倒したときに重大な事実が判明します。パンドラは惑星全体が巨大なヴォルト… 想像をも超える力を持つ怪物「デストロイヤー」が閉じ込められている、「グレート・ヴォルト」だったのです。そう、タイフォンの認識とは異なり、パンドラは本当に特別な惑星でした。そして、カリプソ・ツインズはこのことを最初から知っていました。デストロイヤーがパンドラから解き放たれるのを防ぐため、プレイヤーはエリディアンの母星ネクロタフェヨへ向かいます。これもまた、タイフォン・デ・レオンと同じ旅路です。

ネクロタフェヨに着いたプレイヤーは、ついに最初のヴォルト・ハンター本人と対面することになります。彼はお世辞にも、ポスターで描かれていたような英雄的な姿には見えませんが、ログを通して知った実直な人物であることは間違いありません。タイフォンは空白の数十年の間になにがあったのかを語ってくれます。彼とレダがネクロタフェヨに不時着したこと。そこでエリディアンたちがパンドラに封じ込めたヴォルト・モンスター、そしてマシンについて知ったこと。ふたりの間に子が産まれたこと、そしてその子たちが特別だったこと。子供たちは、男女の結合双生児のセイレーン… 全宇宙で前例のない存在だったのです。

「トロイとタイリーンのタトゥーを見た時、あの子たちを守らねばならんと悟った。セイレーン! 宇宙で最も希少な存在! それが2人も私たちの腕の中にいるんだ。守る方法はただ1つ、ここに残ることだった。しばらく私たちは幸せな家族として過ごした。でもレダは… 死んでしまった。私は1人で子供たちを育てなきゃならなかった。ヴォルトを開けるのが人生で一番の苦労だと思ってたが… 大間違いだったよ!」

タイフォンは男手ひとつで子供たちを育てなければなりませんでした。企業にトロイとタイリーンの存在を知られてしまえば、2人は捕らえられ、人体実験や更にひどい目に遭うことは分かっています。タイフォンは子供たちを守るため、2人を絶対にネクロタフェヨから出さないと決断しました。ですが伝説の冒険者であるタイフォンも、さすがに子供2人を育てる方法は知りません。育児だけでも大仕事だというのに、ネクロタフェヨのような危険な惑星で生活しなければならないのです。状況を考えればタイフォンは頑張ったと言えるでしょう。ですが、子供たちは成長するにつれ好奇心を膨らませ、自分たちを閉じ込める惑星から出ようと画策し始めます…

「息子は病気がちだったし、娘は本当によく喋る子でな! 2人が大人しくなるのは冒険の話をしてやってる時だけだった。怪物を倒し、ヴォルトを開けて、英雄になる… いくら話しても飽きもせずに聞いてたよ! 子供たちにはあらゆる話を聞かせた。グレート・ヴォルトのことも… 思えばバカなことをしたもんだ! そいつはただのお話じゃない、危険な情報だ」

物語を作るときには、具体的に説明する部分と、受け手の想像に任せる部分とを選り分けなければなりません。タイフォンは、子供たちがネクロタフェヨを離れることを恐れていました。彼は本当に、おとぎ話を聞かされたタイリーンとトロイがそれだけで満足すると思っていたのでしょうか? 話を聞かせたことによって、外への強い憧れを抱くとは考えなかったのでしょうか? タイフォンが自ら「冒険家としては一流でも、父親としては三流だったな。まともに子育てもできずに、なにが英雄だ」と振り返っているように、私たちは常に首の皮一枚で生き延びてきた、忍耐強さと相当な運だけの男に待ち受ける悲劇を描きたかったのです。

Calypso Twins

ネクロタフェヨには、惑星を離れようとするタイリーンとトロイが残した2つのエコー・ログが隠されています。ログを聞いてみると、タイリーンは父親の話から「自分には偉大な運命が待ち受けている」と思うようになったことが分かります。生命力を吸い取る能力を持つセイレーンである彼女にとって、ヴォルトはその力の究極型を表していました。一方のトロイは明らかに戸惑っていて、最初はタイリーンが父親を置き去りにしようとしているとも気づいていません。しかし、選択を迫られたとき、彼は自分がタイリーンと一心同体だと思い知ります。タイリーンなしで生きていけないトロイは、彼女と一緒に行くしかありません。

生まれてからずっと企業やヴォルトについての話を聞かされてきた双子は、宇宙の乗っ取り計画を練り始めます。まずは象徴として、母親の名字「カリプソ」を名乗ります。そして、自分たちのカルトを「チルドレン・オブ・ヴォルト」と名付けます。自分たちの謎めいた育ちへのオマージュで、ヴォルトを得ることは生まれながらの権利だと主張しているのです。ネクロタフェヨに置き去りにされたタイフォンは、子供たちの恐ろしい変貌を見ていることしかできませんでした。彼は、子供たちがやってきたことの責任の一端は自分にあるという罪悪感を抱えています。ここで、物語の重要な疑問に行き当たります。タイフォンなはぜ、トロイを殺したプレイヤーを許すのでしょうか? 息子が死んだということを聞かされるだけでも衝撃でしょうが、殺した張本人と対面するというのは並大抵のことではありません。タイフォンは、自分の子供たちの真の姿を、否が応でも突きつけられてきました。そう簡単に納得できる事ではありませんが、2人が怪物になってしまったことを認めざるを得なくなったのです。こうして彼はプレイヤーに「お前さんはヴォルト・ハンターで、怪物を殺すのが仕事」と語りかけるに至ります。

カリプソ・ツインズは幼い頃からタイリーンが先導者で、トロイが追従者という力関係でした。トロイに巣食う悪は、彼の誕生に起因するものです。彼はタイリーンと結合した状態で生まれた、見た目だけのセイレーンです。不完全な存在で、タイリーンの能力がなければ生きていけません。この依存状態こそが、トロイの世界を見る目を歪め、タイリーンとともに父親を置き去りにする原因となります。子どもたちに置き去りにされたタイフォンは、レダの死と同じくらいの深い悲しみを味わったことでしょう。

プレイヤーがタイフォンに初めて会う頃、彼は厳しい現実と向き合わざるを得なくなっています。子供たちを守るためのおとぎ話のせいで、宇宙が終わるかもしれない。宇宙の命運の前では、個人的な嘆きは二の次です。パンドラが開くことは、故郷が引き裂かれるということ。そしてタイリーンがデストロイヤーを吸収してしまえば、手がつけられなくなることは明白です。タイフォンがヒーローとして非常にユニークなのは、トロイを殺したプレイヤーを責めるのではなく、早いうちに息子が危険な存在だと気づかなかった自分自身を責めているという点なのです。

物語の終盤、グレート・ヴォルトを閉じようとするプレイヤーを阻止すべく、タイリーンが現れます。つかの間、彼女は幼少時代を振り返り、銀河で一番有名な男、伝説のヴォルト・ハンター、タイフォン・デ・レオンの子供として育てられていた頃を思い出します。しかし、彼女はすっかり歪んでしまっています。あまりに大きな力と名声は、子どもの頃に抱いた純粋な夢を、暗く陰険なものへと変化させました。彼女はスターになる夢に飲み込まれてしまったのです…

「子供の頃、トロイと夜空を見上げて星になりたいねって言ってた。トロイは、銀河で一番まぶしいやつがいいって。だからあたしたちはここを出た。ヴォルト・ハンターになるためにパンドラに向かった。究極のヴォルトを開いて、銀河で一番の星になるために。今思えば、めっちゃちっさい夢だよね。神にはふさわしくない。あたしは宇宙の星を残らず食い尽くす。1つずつ。あたし以外の光がなくなるまで」

タイフォンは娘を止めようとしますが、強力になりすぎた彼女には敵いません。タイフォンの世代の灯火は消えつつあり、すべては次の世代にかかっているのです。今際の際、タイフォンはプレイヤーに「決して絶やすなよ、ヴォルト・ハンターの名を」と求めます。彼は次の世代へバトンを渡すため、自らバトンを手放したのです。